映画：「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」～劇場で

「ルパン」と言うと今時の若い人にとっては、がぜん本家（アルセーヌ・ルパン）よりもルパン三世だろう。そのルパンに、峰不二子という、ルパンを手玉にとる女盗賊が出てくる。このキャラ名は江戸川乱歩の少年探偵団シリーズに由来すると思っているのだが、それはひとまず置いておいて、峰不二子は終始ルパン（三世）を翻弄し続け、上手を行く。ルパン（三世）はルパンで、どんなに痛い目に合わせられようがとことん不ゥ二子ちゃんを追っかけ続けるってな、ま、アニメの設定になっているわけなのだけれど、シャーロック・ホームズにも、そういう、峰不二子みたいな女性がいた。アリリーン・アドラーである。

今回の、ロバート・ダウニー・Jrとジュード・ロウのシリーズにも、アイリーン・アドラーが登場し、本作（シャドウゲーム）冒頭でも、峰不二子ぶりを見せつけ、ホームズを翻弄しているわけだけれど、しかし、それだけではない。ホームズの実兄で、政府要人のマイクロフトもディオゲネスクラブに通っているし、何より、ホームズの天敵、「小惑星の力学」を書いたモリアティ教授が主役として登場しサイン会までしているのだ。

ま、いよいよオールスターキャスト、ホームズシリーズも佳境に入ったという感じである（それにしても、アドラーはさっぱりしすぎだけれど……）。


→　公式サイト

---

本ブログは映画のネタバレをしない主義だが、原作（映画の原作でなく、ホームズシリーズの原作）を読んだ人なら、モリアティが出てきて、後半の舞台がライヘンバッハ（地名）と聞けば、もう、半分結末はわかっているようなものである。そう予感しながら、コミカルで、アクション満載のホームズ譚を楽しみながら（たとえば、ホームズは女装して半裸になってワトソンとベッドに寝たり、マイクロフトのプライベートは裸族だったりして、ワトソン婦人がそれに辟易したりするのだけれど）、話のストーリーは結末のライヘンバッハの滝に近づいていくのである。そして、ま、ある意味、原作通りの展開となっていくのだけれど。

そもそも、このアクションとコメディという展開は、決してホームズシリーズ原点の味付けではない。もともとのホームズは、どちらかというと一見オカルトというか、一見ホラーというか、一見怪奇な話なのだが、ホームズが解決すると、そんな幽霊話ではなくて、現実の事件であり、犯罪組織による凶悪犯罪であったことはどちらかというと稀で、むしろ平凡な事件だったり、なかには犯罪とは呼べないようなものだってあったのだ。

とは言え、犯罪界のナポレオンが登場した以上は、この手の大掛かりな、本格的犯罪組織になるのはそれはそれで興味深いのではあるが、ま、原作ホームズシリーズは、はやり、NHKが放映していたテレビシリーズが、近年のものでは一番いいかなと思ったりした。

原作ホームズシリーズは、４つの長編と５６の短編からなるが、５６の短編は４つの短編集にまとめられた。その第２短編集「シャーロック・ホームズの回想（思い出）」というの邦題となることが多いが、その最後のエピソードで、ホームズとモリアティが迎えた結末はこの映画シリーズの第２作と重なる。それはむしろ、偶然ではなく、むしろ、映画が原作を意識して作ったからだと思われる。

とすれば、長編シリーズはどう映画に生かすかはともかくとして、どうしても映画３作目がなくてはならないわけだ。本家ホームズシリーズ第三短編集は「シャーロック・ホームズの生還（帰還）」であるが、「シャドウゲーム」の結末は続編の冒頭を「空家事件」に下地にする必要はないとも思われる。アドラーが死に、モリアティがあのままなら、強烈な相手役が必要になるだろうから、たとえば、「バスカビル家の犬」をメインストーリーするということも考えられるけれど、果たしてどんなものになるか、今から楽しみだ。