David the smart ass

心のダイエット!~時には辛口メッセージを~

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「来年の干支」~「猫と正かなづかひの同人誌」原稿

2011-12-31-Sat
 まだ、DSどころかファミコンもなかったころのお話です。
 
 師走に入り、お正月が近くなると、お母さんもお祖母さんも忙しく、トオルくんには、猫のミーしか遊び相手が見つかりません。ときどき遊んでくれるお姉さんが、今日は塾にお出かけてで、ほんとにつまらないのでした。それに、トオルくんはミーがちょっと苦手なんです。お姉さんが一緒だと楽しくじゃれながら遊ぶことができるのですが、一人きりだと、トオルくんが乱暴なのか、まだ小さいと馬鹿にされてるのか、決まってミーに引っかかれることになるのです。だからトオルくんのおでこや手首には引っかき傷が絶えません。

「お母さん、ミーが引っかいたぁ、お母さん。お母さん」
この日も、ミーはなぜだかご機嫌ななめで、トオルくんの左手の甲には、さほど深くはないものの、新しい爪跡が残る羽目になりました。
「何もしないのにミーが引っかくわけないでしょ。お前がちょっかい出したのよ」
うっすらと血を滲ませていても、お母さんは部屋の掃除にあちらこちら立ち働いて、なかなか振り向いてくれません。
「だって……」
トオルくんが半べそをかくと、やっとお母さんは歩み寄り、ちょっとした提案をしてくれました。
「トオル、ミーとは遊ばないで、年賀状書いたら?」
「年賀状? あけましてってやつ?」
「うん。本物のハガキはあとでお母さんと一緒に清書するから、下書きしたら?」
お母さんは裏の白いチラシを二、三枚、トオルくんの前に差し出しました。「年賀状」の言葉にトオルくんは一瞬目を輝かせたものの、「下書き」にがっかりしました。またあとできちんと書き直しなんてのはうんざりです。
「え~、下書き……。何書くの? どうやって書くの~」
「担任の杉山先生に、今年はお世話になりました、来年の目標はこれです、みたいなことを書くのよ」
「え~、先生に……」
どんどん学校の宿題みたいになっていきます。たまらなくなって、トオルくんは
「来年のことを話したら鬼が笑ったって、こないだもお祖母ちゃんが言ってたよ。やだな、鬼なんて絶対にやだ、やだよ」
と駄々っ子状態になる始末です。

「まったく……」
もちろん、お母さんはトオルの屁理屈に負けてません。
「それじゃ、トオル、先に絵を描いたら。来年の干支の絵とか……」
「エトノエトカ? エトって何?」
「干支、十二支よ。お祖母ちゃん詳しいから聞いてごらん」
「わかったぁ」

トオルくんが台所のコンロの前に立つお祖母ちゃんを呼ぶと、お祖母ちゃんが炬燵のところまで来てくれました。
「ほぉ、お勉強かい。トオルくんはえらいねぇ」
お祖母ちゃんはなんでも誉めてくれるので、トオルくんは大好きです。
「なになに、干支? ええとね」
「エエト?」
「エトノエトカ」とか、「エエト」とか、トオルくんは目をぐるぐるさせました。
「干支ってのは十二支って言ってね、一年一年に動物の名前が付いてるってんだよ。お祖母ちゃんは丑年で、お母さんは午で、たしか、お姉ちゃんは戌で、ええと、トオルくんは……」
「ボクは……」
「トオルくんは……」
お祖母ちゃんはトオルくんの干支を忘れてしまったらしく、ちょっとごまかし気味に続けました。
「まぁ、こんなふうに年に十二匹の動物の名前がついてる、それが十二支なんだよ」
「わかった」
「さ、指を出してごらん。いくよ、ネでネズミぃ、ウシぃ、トラぁ……」
動物の名前を挙げながら、左手で指を折っていきます。
「ウーでウサギぃ、タツぅ……」
「タツ? タツって何?」
「辰は龍よ。今では空想上の動物ってことになってるけど、昔は実在するって信じられてたのかも……。それからね……」
へぇ、龍かぁ。龍ってどんな大きさで、どんな色だったのかなぁ、鳴いたのかな、吠えたのかななどと気になって、トオルくんはほとんど上の空で聞くだけでした。
「……そして、最後のイーはイノシシ。これはブタのことだって。ブゥブゥのブタ。ね、身近な動物たちはみんな入ってるだろ」
「あれ? ミーは?」
「ミーは、ヘビ年だよ」
「え、お祖母ちゃん。ミーは猫。猫年ってないの……」
「あははは、ミーってミーね。猫年があったらよかったのにね。あはは」

nekobonbana.jpg



 お祖母ちゃんは楽しげに炬燵の横のミーを見ると、今度は別の話を始めたのです。
「猫年がないのはね、トオルくん、わけがあるんだよ」
「わけ?」
「そ、十二支は神様が決めたの」
「へぇ」
「あのね、ある時、神様が、来年の元日の朝、一番早く来た者から十二番目まで、それぞれを一年間の大将にしてやるから、みんな挨拶に来なさいとおっしゃったの。だから、動物たちは自分こそ一番になりたいと、次のお正月を待ってたんだね」
「うん」
「だけれど、その中で猫だけは、どういうわけだか神様のところに行く日がいつだったか、肝心なことを忘れちゃったのよ」
「うん」
「そこで、友達のネズミに訊くと、ネズミはわざと一日遅れの日を言って猫をだましたんだって」
「へぇ、ネズミがだましちゃったの……」
お祖母ちゃんはこっくりとうなづいて、
「で、大みそか。牛は、自分が歩くのが遅いのを知ってて、一足早く出かけると言って夜のうちから支度をし、まだ暗いころに出発したんだって。ネズミは牛小屋の天井でこれを見てて、ひょいっと牛の背中に飛び乗った。牛は蠅が止まった程度にしか感じなかったのか、そのまんま気づかずに神様の御殿の前まで行ったんだって」
「うん」
「自分が一番になれると牛は喜んで座って待つことにした。やがてお正月の朝が来て御殿の門が開くと、牛はゆっくりと立ち上がって歩き出した。するとその隙に、背中から、ネズミがぴょんと飛び下り、ちょろちょろと走って、一番に神様に挨拶をしたんだって」
「ふーん」
「ネズミが一番、牛が二番、それから、虎、兎……と来て、この順番に十二支が選ばれることになったんだって」
「で、猫は?」
「猫はネズミの言葉を信じて、二日になってから神様のところに行ったので、アウト」
「アウト。猫、アウト。じゃ、猫、怒った?」
「ね。だから猫はそれを恨んで、今でもネズミを見ると追っかけ回すことになったんだってさ」
「それ本当の話?」
「さぁ、お祖母ちゃんも、お祖母ちゃんのお祖母ちゃんから聞いた話だから……。ああ、いけない。そろそろ昆布をあげないと」
お祖母さんはお台所の方に去って行きました。また、一人になったトオルくんですが、お祖母ちゃんにちょっとおもしろい話を聞いて少し満足しました。そして、ミーに話しかけました。
「ミー、だから、猫は入ってないんだって」
ミーはその言葉が耳に入らないふうで、そっぽを向いたままです。
「ミー、残念だったね……」
反応を示さないミーがおもしろくなくて、トオルくんはミーの頭をくるくると撫で回すのでした。ミーはうるさがって首を振ると、またすまし顔でそっぽを向くのでした。

 「あ、お祖母ちゃん。ボクは何年(なにどし)? ボクの干支は……」
トオルくんはお祖母ちゃんが自分の干支を言ってくれなかったのに気づいて、座ったまま大きな声を出しましたが、お祖母ちゃんは台所でお鍋に夢中です。来年の干支のことも、トオルくんの干支のこともすっかり頭にないって感じでした。
「ねぇ、お祖母ちゃん、お祖母ちゃん……」
繰り返し呼ぶ声に、今度はお母さんの大きな返事が聞こえました。
「トオルはネっ」
「うん」
「ねッ!」
「うん」
縁側で窓ガラスを拭いてたお母さんが、背中を向けたまま答えてくれたのです。
「だからネだよ。子年、ネズミ年よ……」
「あ、ネかぁ! 子年のネ。ねーねーって、呼びかけられたのかと思ったよ……」
……ああ、「ね」って「子年」の「ね」だったのね。ネズミの……。ボクはネズミ年だったんだ……。トオルくんは左手の甲の引っかき傷をまじまじと見てから、おそるおそるミーの方を見ました。

 猫は素知らぬ顔でじっと丸まったまま動きませんでしたが、トオルくんには、なんだかその顔がにんまりと笑ったふうに見えてならないのでした。

                                                              おわり  

※参考
干支情報サイト(http://www.eto12.com/junishi02.html

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