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David the smart ass

心のダイエット!~時には辛口メッセージを~

短編小説:「池のほとり」(4/5)

2001-03-10-Sat



  (4)

池といっても、ほとりに近いところはそんなに深くないことは、そのあたりで育った太郎も少年たちもよく知っていました。太郎は必死の思いでじゃぶじゃぶと数歩走って逃げました。いくら暖かいとはいえ、まだまだ春先で、しかも夕方です。水はとても冷たく感じられました。そのせいか、少年たちがすぐに飛び込んで追いかけてくるという気配はありませんでした。岸から太郎を包囲するように見守っています。

あるいは、そこで太郎が冷静になって謝ることができたなら、まだよかったかもしれません。しかし太郎の口から出た言葉は相変わらずでした。太郎は吠えるように言いました。
「お前たち、言いつけてやる。先生にも。警察にも。親に言って訴えてもらうからな」
そんなこと言葉を聞くと、少年たちも後もどりができなくなってしまったのです。何を、この野郎ということになり、池の岸と水の中とでのにらみ合いが始まりました。

やがて日は傾き、池は夕焼けを映して赤い血の色ようにさえ見えました。ああ、日が暮れる。どうなるんだろう。やむなく太郎は逃げてきた岸ではなくて、別の岸を求めて、ひょうたん池を奥へ奥へと歩き出したのです。池は思いのほか深くはありません。深いと思っていたのは子どものころで、身体が大きくなった太郎にはなんだか怖くない深さでした。泥が足にまとわりついて重いながらも、このまま腰の深さくらいであれば、なんとか逃げ道を確保できるのではないか。そう思うと太郎はいっそう力強く足を進めました。

ひょうたん池はその名前のとおり、細長い池の真ん中あたりがくびれています。太郎はとびこんだあたりはから林の奥へ進み、ちょうどくびれて細くなったところにさしかかっていました。そこを過ぎると再び細長く広がって針葉樹の林のさらに奥へと入り込んでいくのですが、そのくびれを過ぎるところが太郎にとってはチャンスでした。岸に立つ少年たちからは一瞬死角になるのです。くびれを過ぎて右にとるか、左にとるかで少年たちを引き離すことができそうなのです。

「おい、太郎が逃げるぞぉ」
太郎の作戦を見抜いたように少年の一人が叫びました。
「回れ、回れ!」
「行かすな。やっちゃえ」
「水に入って追いかけろ」
そう叫びながら、太郎を岸から包囲しようとしていた少年たちの中にも、ついにジャブジャブと自分から池に入るものさえあらわられました。そんな少年たちの勢いを見て、太郎はやっと本当に怖くなったのです。ここで捕まったら、池に沈められるかもしれない……。太郎は急に恐ろしくなりました。






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