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短編小説「猫の話」(2/5)

2001-08-27-Mon


   (2)

「今日も食べていきますよね。ネギラーメンの旨い店を見つけたんですよ」
Kは答えなかった。ラジオのニュースを聞き入っているのかもしれない。
「ネギラーメンに、厚めのチャーシューを刻んで入れてありましてね。旨いんですよ」
その店はときどき食べに行くようになっていた。まだ、オープンしてそんなに経っておらず、Kはおそらく知らないだろうから喜ぶに違いないと思った。
「……」
Kははっきりとは返事をしなかった。なにかうなり声のようなものが聞こえたような気がしたが、うんと答えたようでもあるし、う~んと迷っているようでもあった。

「どうでした? 今日の話は?」
わたしは落語の話を振ってみた。やはりKは返事をしなかった。いつもなら、適当に「そうだねぇぇ」とか、「そうだなぁ、どう思った?」と、ま、わたしの問いかけに適当に相づちを打って、わたしに先に話をさせてくれようとするのに。
「わたしははじめて聞きましたよ。今日の話。Kさん、聞いたことあります?」
明確に呼びかけたら、Kの重い口が開いた。
「……四つ目の猫か……」

 落語には枕というのがある。それは落語の導入部分であり、一つの重要なテクニックである。本題に先立って、最近マスコミがとりあげている話や世間話、小咄などををいくつかして、その日の客の反応を見て、出しものを決めるのだ。もちろん、そればかりではない。噺の本題やさげ(落ち)の中に出てくるわかりにくい言葉やなじみの薄い事柄について、あらかじめこの枕の段階で小噺などをしておいて、事前に客席の理解を深めておくというねらいもある。ただ、その日の噺は、どうやら最初から怪談噺と決まっていらしく、枕から、お化けだの、狸や狐が化かすだのそういう話が多かった。そして、本題は猫に関する怪談だった。ちょっとした都市伝説である。

……最近、世の中をにぎわしておる話題に、ある女性作家が、猫に不妊手術をするくらいなから、生まれてくる仔猫を殺した方がいいのではないかと考えまして、実際それをしているとエッセイに書いたところ、これがいろいろと反響を呼びましてな、バッシングというか、なんというか、いろんなことが起きておるのであります。強制的に避妊手術をするのと、堕胎手術をするのと、生まれてきた仔猫を投げ殺すのとでは、どっちが残酷で、酷いのかというような……

 なかなかタイムリーでおもしろそうな話をすると思った。「わたしは子猫を殺している」という名言というよりはむしろ妄言で、直木賞作家がネットで大バッシングを受けた。わたしは、落語のおもしろさとか、話の上手さとか以前に、そんな話題を枕に入れられるこの噺家にちょっと親近感を持ったし、一目置いた。

 それから、噺は猫が呪うとか祟るとかいう話になって、それが日本ばかりではありません、ベトナムでもそういうことがあるのですよということになって、落語家の創作なのかどうかわからないけれど、ベトナムの四つ目の猫の話になった。残念ながら、枕の子猫殺しの方が興味深く、こっちの話はあまりおもしろくなかった。結局、怪談と言っても復讐の話というか、呪いの話というのは、複雑なことはなくて、要するに「酷いことをしたから呪われた」というような話で、あとは、それがどんなふうにおそろしいかということにかかっているのだった。

 --ベトナムのある川原で、おもしろ半分に石を投げて遊んでいた男がいた。間が悪いことに、近所に住む子どもがかわいがっている猫に当たって、運悪く死んでしまった。子どもがあまりにも泣き続けるので、最初は謝っていたものの、らちがあかず腹が立って思わず女の子までぽかりとやったら、はずみが悪くて女の子まで死んでしまった。その夜から、男が寝ているとどうも寝苦しくなる。足元に何者かが立ってこっちを見ている。生臭い匂いが部屋全体に漂っている。うわっと思って飛び起きて、明かりをつけてみると誰もいない。幾晩めにかに憔悴して目覚めたとき、男は暗闇に光る猫の目に気づく。それは人の目ではな、明らかに猫の目なのだけれど、どういうわけか四つ目の猫なのだ。そうして、その四つ目の猫が、だまってじーっと男が寝ている方を見ているという--そんな噺だった。



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