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David the smart ass

心のダイエット!~時には辛口メッセージを~

短編小説「猫の話」(5/5)

2001-08-27-Mon


   (5)

 Kの話はそこまでだった。わたしは思わず、
「ほんとうですか?」
と言ってしまった。よく雑談をしたときにする「え~」、「うそ~」などと言うことがある。あれは一つの合いの手である。それと同じつもりだった。Kは何もいわず、上目遣いでこっちを見た。もう一度、「本当ですか? なにか、怪談話のあとで、わたしを怖がらせようとしてるんじゃありませんか?」と言おうとして、やめた。

 店から出て、再びわたしたちはわたしのクルマでKの家に向かった。途中で何度か「本当ですか?」と尋ねようと思って止めた。本当かどうかなどというのは、ここで本人に聞いてもらちがあかないのだ。ただ、わたしは意地悪というよりは、いわばちょっとした過剰サービスで、相手を怖がらせようとして一芝居打つことがたまにある。小さな子をおどろかせてやるとこわがりながら喜ぶが、ま、いわばそういうサービスをしてしまうのだ。Kがそういうことをしているのではないかと、実は半信半疑だったのだ。そんな疑惑とも言える気持ちがあると、なかなか会話が進まない。自然二人の会話は途切れた。

 わたしはふっと頭に浮かんだ疑問を口にしてみた。
「ベトナムの猫が四つ目なのは、被害者が二人だからじゃないですか?」
「……」
「石の当たった猫と、ぽかりとやってしまった女の子」
「……?」
Kはギョロリとわたしを見た。その先を言わないでくれと言っているようにも思えたが、わたしはもう言わないでいられなかった。
「Kさんのお話では、走っていた子猫が急に向きを変えたようだと言いましたよね。それって、子猫なりに理由があったと思うんですよ。もちろん、今となってはわからないのですけど、ひょっとして、Kさんが追いかけっこをしていた猫は一匹じゃなかったのじゃないですか?」
「……」
Kは無言だった。その先のわたしの疑問は、黙っていた。まさか、二匹の子猫を追いかけていて、どっちが生き延びるかなんていう、残酷な競争をしていたなんてことはないでしょうね……。わたしはそう言おうとしたのだ。わたしはわたしの妄想的な疑問を飲み込んでそのまんまクルマを走らせた。

 カー・ラジオから懐かしのジャズが静かに流れてくる。Kはそれを聞いているのかいないのか、黙って前を見つめていた。道順を説明されなくても、もう、たびたび送っているのでわたしも知っていたが、あまり沈黙が続くのも気まずいので言葉で確認したりする。
「ここを曲がるんでしたよね」
「うん」
道を確認すると、Kの態度は普通だった。楽しい話題になるとうまく話を合わせてくれるが、普段は落ち着いた男である。こうして静かに前を見ているのが普通だった。ウソの話をしてわたしを怖がらせ、反応を楽しんでいるという感じはない。そもそもKはそういう人を食ったようなところはない男だった。やがて道は市道へとはいり、次第に狭くなっていた。Kが「子猫を轢いた」と言っていたのは、このあたりのことなんだろうかとふと思うと、なんだか急に怖くなった。かといって、「どのあたりですか?」などとはこれまた聞けなかった。

 そのときだった。左の草むらからふっと何か飛び出してきた。暗闇の中で発見が遅れたが、それは子猫だった。

 おいおい! とっさにハンドルを右に切ってブレーキを踏んだ。Kがつんのめるように手をフロントグリルに着くのが見える。バ~ンという大きな音がして、クルマの右前がガードレールにぶつかった。猫はなんとか避けきったようだった。Kも衝撃は受けたようだが、幸い怪我はしてなかった。降りてみると右のヘッドライトの当たりがつぶれていた。過去の経験で修理代は10万円ではすまないだろうと思った。思った通り、猫の死骸のようなものは全くなかった。いつもなら、バカ猫め! こんなことなら轢き殺してしまえばよかったと吐いて捨てるところだが、その日ばかりはそんな気にならなかった。

 ふりかえると、子猫はどこかに消えていた。

                  <了>




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2009/8/6 誤字脱字の訂正。及び、(5)ページ目を加筆。
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